コーヒーをお出しする時・いただく時に役立つマナーを、UCCコーヒーアカデミーの堀江講師に聞きました。
INDEX
社交の場を育んだ「コーヒー文化」
17世紀、ロンドンやパリで人気の「コーヒーハウス」と呼ばれた場所があったことを知っていますか?
「コーヒーハウス」は、コーヒーを楽しみながら、人々が集って情報を交換したり、交流を深めたりする社交の場でした。そこから新しい文化やビジネスの潮流が生まれ、社会の成熟にもつながっていったのです。

そして現代でも、カフェ、職場、家にお招きする機会など、おいしいコーヒーは人と人をつなぐ場で欠かせないものとして、重要な役割を果たしてくれています。
今回取り上げるのは「マナー」とは、「目の前の相手を思い遣るちょっとした気遣い」のこと。コーヒーのマナーを知っておくことで、コミュニケーションがより円滑になるかもしれませんね。
堀江講師のアドバイスと共に、知っておきたいコーヒーのマナーをご紹介します。
コーヒーを出す側のマナーについて
はじめに、あらたまった場面でコーヒーをお出しする際に迷わないよう、知っておくと良いポイントをいくつか聞いてみました。
コーヒーカップや食器の選び方に決まりはあるの?
お出しするコーヒーの器やカトラリーは、どこまで揃えれば良いのでしょうか?

カップとソーサー(受け皿)だけでなく、シュガーポット、ミルクピッチャーまで揃えると、統一感のあるテーブルセッティングになり、フォーマルなおもてなしになります。でも、カジュアルなおもてなしなら、カップとソーサー、スプーンがあれば十分。スティックシュガーやポーションミルクなどを備えておけば、初対面のお客さまはコーヒーの好みがまだ分からない方がいても安心です。
器の選び方に、ポイントはありますか?
一般的に「コーヒー用」とされるものであれば、あとはお好みで構いません。あえて言うなら、内側が白いカップを選ぶと、コーヒーの液色がきれいに映えると思います。
ひとつご提案するとしたら、どんな雰囲気の中でコーヒーをお出しするのか、インテリアとの調和から考えてみるのはいかがでしょうか?
例えば、ログハウス風の空間なのにロココ調の食器が出てきたら、相手の方にちぐはぐな印象を与えてしまうかもしれません。コーヒーを楽しむ場所に合わせたデザインの食器を選ぶと、空間全体でおもてなしの気持ちを伝えることができるのではないでしょうか。

大人数に提供する時のコーヒーの運び方は?
少しかしこまったシーンで、大人数のお客さまに陶器のカップとソーサーでコーヒーをお出しする。ちょっと気を遣う場面ですが、どうやって運ぶのがスマートなのでしょうか?
まず、マナーとしては、お客さまがおひとりでも必ずトレイを使って運ぶこと。そしてお客さまの手元にお出しする時は、カップとソーサーがセットされた状態であることが基本、と覚えておきましょう。
ただ、運ぶ前にカップとソーサーをセットすると、トレイで運べる数には限りがありますよね。お客さまの人数が多い時は、コーヒーを入れたカップの傍らへ、必要な数のソーサーを重ねて運び、一度お客さまと少し離れたテーブルなどでカップをソーサーにセットしてから、お手元にお出しするとスマートです。
運ぶ時やセットする時は、カップのフチやスプーンなど、お客さまの口がこれから触れるところは手で触らないように気をつけましょう。
お客さまの前でガチャガチャ音をさせてセットするより、離れた所でセットし直してからお出しすると、気持ちに余裕も持ててスマートですね。
大人数というとビジネスの場面が多そうですが、目の前で音をさせて商談を中断させないように、という気遣いも大切ですね。
カップの取っ手の向きやスプーンの置き方は?
お客さまにお出しするカップの取っ手は、右か左か迷うのですが、どちらが正式なのでしょうか?

国際的なマナーでは取っ手を右側にするのが決まりではあるのですが、必ず右側にしないと失礼ということではありません。
例えば、片側だけに絵柄が入っているカップでお出しするときなどは、取っ手が左側になっても、お客さまにその絵柄を楽しんでいただけるように配置することもあります。
決まりより「気遣い」が優先されることもある、ということですね。
ちなみに、喫茶店が増えていった昭和の時代では、苦味のしっかりしたコーヒーを提供する店が多く、砂糖とミルクを入れるのは定番の飲み方でした。
そのため、右手で砂糖やミルクをかき混ぜるときに押さえやすいよう、あえて取っ手を左側にして出すお店も多かったようです。

どちらも心配りから来ているもので、間違いではありません。ただし、大人数の方にお出しする場合は、右側なら右側に統一しましょう。
スプーンを置く位置には、決まりはあるのでしょうか?
右手で使いやすいように、持ち手を右にしてカップの前に置くのが自然ですが、これもケースバイケースで、「砂糖やミルクは入れないで、コーヒーそのものの味を楽しんでほしい」というメッセージがある場合などは、最初からカップの後ろにスプーンを置くこともあるようですよ。
マナーを知った上で、そこにどんなおもてなしのメッセージが込められているか、感じ取る心の余裕も持っていたいですね。
コーヒーの温度で気をつけたいこと
おいしく飲んでいただくためには、適温でお出しすることも大切ですよね。
コーヒーの飲み頃の温度帯の目安は、ホットコーヒーなら68~70℃と言われています。
でも、抽出時に適温とされるお湯(92~96℃)で淹れても、コーヒーの器具やカップなどにどんどん熱を奪われ、できあがりのコーヒーの温度は下がっていきます。使用するカップやソーサーなどを「湯煎」して温めておくことで、飲み頃の温度でお出しすることができますね。
▼「湯煎」についてはこちらの記事で詳しく解説しています
温度の感じ方は人それぞれなので、中には猫舌の方もいらっしゃるかも。
その場合は、「熱いかもしれないので、少しお待ちになってからどうぞ」と一言を添える気遣いを。適温になるのを待つ間はおしゃべりなどでゆったりと過ごしていただき、その方の適温で飲んでいただく・・・そんな配慮が自然にできたら素敵ですね。
コーヒーを飲む側のマナー
続いて、コーヒーをいただく時のマナーについて確認していきましょう。「良かれ」と思ってやりがちなことも、ちょっと注意が必要そうです。

勝手に自分からはコーヒーを受け取らない
コーヒーを頂く時、「何かお手伝いしなくては」と思って、自分から手を出して受け取りに行きそうになるのですが?

コーヒーは出す方にお任せして、目の前に置かれるまでは手を出さずに待つようにしましょう。もしコーヒーの入ったカップを運んでいる時に、急にトレイの方へ手を出されるとバランスを崩してひっくり返してしまうなど、思わぬトラブルになりかねません。
むしろ、じっと待っているのが、出す方への心遣いなんですね。
家では、そこまで厳密に考えなくても良いと思いますが、相手の動きを見ながら無理のない範囲で協力するなど、その場に応じた柔軟な対応が、お互いにとって心地よい振る舞いになります。
コーヒーのスマートな飲み方は?
では、いよいよコーヒーをいただくとなった時、美しく丁寧な印象になる飲み方があれば教えてください。
食事マナーと同じように、音をあまり立てないように意識しましょう。
コツは、ゆっくりとした動作を心がけること。
スプーンで砂糖を混ぜるときにもゆっくりと動かし、混ぜ終わったスプーンはソーサーの奥に置くようにします。これだけでも丁寧な印象を与えられると思います。

コーヒーを口に運んだり、ソーサーに置くときも、動作をゆっくりと行うことを意識してみてください。
考え方として、「音を出すと無作法」というより、出してくださった器やカトラリーを丁寧に扱う気持ちを持つことを大切にしたいですね。
コーヒーを飲みきれなくて残してしまった時、「謝らなくては」思うのですが、何かスマートな言い方はあるでしょうか?
残したことを、必ずしも謝罪する必要はありません。
ただ、謝罪ではなく、相手を気遣う言葉が添えられたら、場も和みますよね。例えば「ついお話に夢中になって」と伝えれば、自然な表現になるのでは。友人や親しい相手の場合は、「お腹いっぱいで」など気軽な一言でも十分です。
そして、残しても残さなくても、最後に「美味しかったです」「ご馳走さまでした」など感謝の言葉を伝えるだけで、おもてなしする方は嬉しい気持ちになります。
確かに、謝るより、感謝の言葉で締めた方が、お互いに「いい時間だった」という気持ちが残りますね。
ちょっと気になる、コーヒーマナー Q&A
他にも、日頃から「これってどうなの?」と迷いがちなコーヒーマナーについて、堀江講師に聞いてみました。
Q お客さまにマグカップで提供してもOK?

相手との関係性やシチュエーションで考えるのが良いと思います。
フォーマルなシーンではカップとソーサーでお出しするのが適切です。ビジネスシーンや目上の方などの場合も、カジュアルな印象を与えるマグカップは使わない方が良いですね。
もちろん、お相手が友人など親しい間柄であれば、マグカップでも構いません。
Q コーヒーに最初から砂糖やミルクを入れるのはマナー違反?

これは好みの問題で、ブラックで飲めない方もいらっしゃるし、マナー違反ではありません。
最近は生産地や豆の銘柄などを楽しむスペシャルティコーヒーも人気なので、「コーヒーそのものの味を楽しむ、という傾向はあるかもしれませんね。
特別な香りや味わいがあるコーヒーをお出しする場合は、『よろしければ一口目はそのままお楽しみください』と一言添えてみると良いかもしれません。
Q コーヒーが熱すぎるとき、息を吹きかけて冷ましても良い?
熱いコーヒーには、口でフーフーと吹きかけて冷ましたくなりますが、マナーとしてはあまり良いとはされません。
元来、コーヒーは時間をかけて楽しむ飲み物。「熱すぎる」と感じたら、もちろん無理して飲む必要はないので、少し心に余裕を持って適温になるのを待ってから飲んでいただくのが良いと思います。
Q カップに口紅の跡がついてしまった時は?

カップについてしまった口紅の跡を、飲むたびに手や紙ナプキンで拭うのは、あまりスマートではありませんね。最初から跡をつけないよう、心遣いがあると良いと思います。カップに口をつける前に、ナプキンなどで口元を抑え口紅をオフしておきましょう。
堀江講師が考えるマナーの本質とは?
誰かとコーヒーを飲むことは、喉の渇きをいやすだけでなく、同じ時間をその人と共有するということ。マナーとは、その場をお互いが楽しく、気持ちよく過ごすための「思いやり」が前提です。
過度に堅苦しく考えず、「一緒にコーヒーを飲む」時間を楽しんでください。
仕事柄、コーヒーを飲むときは農園や研究開発、工場など、様々な方のことを思い浮かべることがあります。一杯のコーヒーができるまでに携わってくださった皆さんに感謝するためにも、より美味しくいただくこともまた、マナーかもしれませんね。
誰もがコーヒーを美味しく楽しむために

マナーは、ルールや決まりごとではなく、相手の気持ちを考える「思いやり」。
そう考えると、様々なシーンにも自信を持って、スマートにふるまうことができそうですね。
何よりも、あなたを含む、そこにいる誰もがコーヒーを美味しく楽しむためにマナーがあることを忘れずに、さらに心豊かなコーヒーライフをお過ごしください!
今回教えてくれたのは・・・

UCCコーヒーアカデミー講師
堀江 美穂 Miho Horie
UCCコーヒーアドバイザー。1999年よりUCCコーヒー博物館勤務。
2020年からUCCコーヒーアカデミー専任講師として授業を担当
(部署名・役職名は取材当時の情報です)
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