コーヒーが一人ひとりの想いを込めたアートになる瞬間を探るインタビューです。
まつの・こうへい
大阪府出身。2009年、大阪のイタリアンレストランにてラテアートを始める。2013年より活動の中心を東京へ移し、ロイター通信の記事により海外メディアでも多数紹介され注目を集め、UCCコーヒーアカデミーの講師も務める。2019年から東京・蔵前のカフェ「HATCOFFEE」で独自のラテアートを提供しながら、メディアやイベント出演の他、ドラマ番組や広告、プロモーションビデオなどに作品提供を行っている。アニメラテアート王選手権の初代チャンピオン。
HATCOFFEE
https://www.hatcoffee.jp/
お客さまの喜ぶ顔がラテアーティストとしての原点
―ご自身とラテアートとの出会いからお聞かせください。
専門学校を卒業して、シェフをめざしてイタリアンレストランに就職したのですが、まずホール担当になってお客さまに食後のコーヒーを出していました。その中で、先輩からラテアートを教わったのがきっかけです。
―それは普通の平面のラテアートでした?
はい、ハートやリーフといった一般的なものを描くのですが、それですら最初はうまく描けませんでした。そこでダメ元でハートの出来損ないの丸形に、とある国民的アニメのキャラを描いてみたらこれがお客さまに受けてしまって・・・自分ではあまりいい出来だったとは思えないですが、ラテアートだから喜んでもらえた、ということなのだと思います。
―勝手な絵を描くな、と怒られなかったですか?
その当時のお店のマネージャーさんもなぜか面白がってくれて、ランチタイムにもラテアートを出すようになりました。そうしてだんだん口コミで面白いラテアートがあるという評判になっていった感じです。
ある日、カップルのお客さまで彼氏さんから彼女さんのためにあるキャラクターを描いて欲しいというリクエストをいただきました。彼女さんの誕生日だったとのことで、作ったものをお見せしたのですが、結果彼女さんが涙を流して喜んでくれました。そんな体験をしたこともありこの道を極めようと思うようになりました。
―自分のアートが感動を生むことに気がついたのですね。
誕生日ということもあってこちらも心を込めて一生懸命に描いたので、それが伝わった喜びもありました。やはり自分の仕事で誰かが喜ぶ経験をするのは、強く心に残ります。我流で始めたにも関わらず、おかげさまで2015年にはアニメラテアート選手権で優勝もできて、多くの人に認知してもらえるようになりました。
その延長線上で、作るパフォーマンスを見てもらうことにしたり、帽子をトレードマークにしたり、そもそもラテアートに人を喜ばせる大きな魅力があるからこそ、僕の今があるような気がします。
目の前の人を「想う」ことからラテアートづくりは始まる
―ラテアートはどんなリクエストでも答えてくれるのですか。
写真やイラストを見せていただいて、似顔絵的なものであれば基本的には何でも可能です。ただし3Dの場合、重力には逆らえないので、下が細くて上が大きいようなシルエットはできません。
―リクエストは写真を見せればそれでOKなのでしょうか。
ウチのお店では、作る工程もアートの一部だと考えています。お客さまと直接お話をして、その写真やイラストの題材に対する想いを汲み取るようにしています。表現された結果にも神経を注ぎますが、同時にそうしたコミュニケーションをとても大切にしています。例えば、犬の写真であれば、とても可愛がっていたのに亡くなってしまったワンちゃんであるとか、女性の写真であれば結婚を控えている友達への応援メッセージであるとか、そうしたバックグラウンドをお聞きすることで、そのお客さまが作りたいアートを僕たちが力添えして作っていく、お客さまの心により強く残るものにしていく、ということです。
―アートに込めた「想い」が重要なのですね。
おそらく、ラテアートに限らずどんなアート表現でもそうだと思うのですが、伝えたい想いがあって、それがカタチになったものがアートだと思うので、その背景にある想いをどれだけ僕たちが理解しているかが重要です。
飲んで身体の一部になる「アート」
―コーヒーという作品の素材についてはどんな想いがありますか。
多くの人にとって、コーヒーは生活に欠かせないものですよね。目覚めの一杯から始まって、味を追求する人、リラックスのために飲む人、カフェ巡りのようなイベントとして楽しむ人、百人いれば百人分それぞれの楽しみ方ができます。とても身近で、なおかつユニークな存在だと思います。
―ラテアートも、アートではありますが飲む楽しみもあります。
先程もお話したように、ウチのお店ではカウンターで作る工程もすべて見えるようになっています。ここでコミュニケーションを図り、お客さまの気持を3Dで表現する、そして最後は飲むことによってアートが身体の一部になる。こうした一連の工程すべてを、特別な経験として記憶に残してもらえたら最高ですね。
―SNSに投稿して「映え」る一方で、自分の身体にも記憶が残るという…。
ですからぜひ一般の方にも自分でラテアートにチャレンジしていただきたいです。練習すればするほどそこに「想い」を込めやすくなりますし、もし失敗しても美味しく飲めます(笑)。
ラテアートが、またひとつコーヒーの可能性を広げる
―日本の3Dラテアートのスペシャリストとして、これからの展望についてお聞かせください。
お店でお客さまにラテアートをお作りするのと並行で、メディアへの露出や、作り方の講習会なども積極的に続けていきたいと考えています。3Dラテアートを日本の独自の飲料文化として、世界に発信していきたいです。
-そんな中で、UCCとのコラボレーションも続いています。
高性能のエスプレッソマシンをご提供いただいたり、コーヒーアカデミーの講師を務めさせていただいたりとてもいい関係が続いています。これからもイベントでパフォーマンスをするなど、どんどんコラボレーションを深めていきたいです。考えて見れば、UCCさんとつながれたのもラテアートのおかげですね。
―コーヒーは出会いをつなげてくれるツールでもありますね。
ラテアートの道に入ったのも当時のイタリアンレストランでお世話になった方々のおかげですし、3Dに発展したのも、面白い表現を求めて友人と切磋琢磨した結果です。いまお客さまの願いを叶えるためにアートを作っていますが、まず僕がいろいろな願いをコーヒーに叶えてもらっている気がします。
これからもいろいろな人にラテアートの楽しさ、深さを伝えていければいいと考えています。
-ありがとうございました。これからのご活躍も楽しみにしています!
撮影場所:HATCOFFEE