そこにはUCCのコーヒークリエイターたちの「おいしい事実」があります。
INDEX
ハイエンドなクオリティの豆を求めて
「コーヒーは何年関わっても飽きることがない、非常に奥の深い世界です」
そう語るのは、農事調査室 室長の中平尚己。農事調査のために世界中を渡り歩く中平は、社内資格「UCCコーヒーアドバイザー」の第1号であり、ブレンドレシピのシミュレーションするシステムを開発した人物でもあります。
私はもともとは営業畑の人間です。コーヒーやブレンドについては会社や先輩に教わるほかは、独学で勉強していたのですが、2000年に「UCCコーヒーアドバイザー」という制度ができたんです。コーヒー全般の知識と実務を体系的に習得することを目的とした社内資格制度です。もっともっとコーヒーのことを知りたかったので、これは良い機会だなと思いました。
社内第1号で資格取得、アカデミー発足を経て農事調査室へ
2002年に初めて受験し合格したのですが、社内初の「UCCコーヒーアドバイザー」になったことで、周りの社員からは「コーヒーに詳しい人」という見られ方をするようになりまして(笑)。その影響でコーヒーに関する情報が色々なところから集まるようになって、さらにコーヒーに詳しくなっていきました。
その後は、日本初のコーヒー専門の教育機関「UCCコーヒーアカデミー」の発足に携わり、2007年から専任講師をしていました。2018年からは現職の農事調査室で、より深くコーヒーと関わっています。
消費者の好みを熟知して、生産者へアプローチできる強み
いま所属している農事調査室は、産地へ農業技術の支援をするだけでなく、コーヒーの歴史や品種の調査研究をする部署です。原種に近い豆を探したり、絶滅してしまった品種をもう一度復活させたり。
そういうちょっとマニアックな仕事をする中で、これまでの経験を活かし、味覚のほうからのアプローチを図っています。たとえば、生産国に対し「日本の消費者は、こういう味覚を好むので、ここを改善して欲しい」といったことを直接相談できる、これは自分の強みだと思っています。
車業界では、“F-1で培った技術を市販車にフィードバックする”という形で技術革新が進みます。コーヒーの世界でも同様で、ハイエンドなコーヒーで焙煎やブレンドの技術を磨いた方が短期間に成果が得られます。そういった観点からも、直接生産国に赴いて品種や加工工程の最新のトレンドを調査研究する必要があります。用意されたコーヒーを買い付けているだけではなく、直接出向いて、新しいブレンドを生み出せるような個性的なコーヒーを探すわけですね。
UCCの農事調査室は、それぞれの地域で品質コンテストを開催し、技術的なアドバイスをするだけでなく、ルワンダやホンジュラスといった国では、持続可能な活動としてコーヒーで地域経済を活性化させることにも取り組んでいます。また、長年の農地調査で蓄積してきたコーヒー豆に関するあらゆるデータが、UCCのブレンドの技術にもフィードバックされています。
▼UCCのサステナビリティ
https://www.ucc.co.jp/company/csr/
コーヒーが未来の自然環境を守る
生産国に出向くと、当然、現地の環境問題に向き合うことになります。
「コーヒー2050年問題」をご存知でしょうか。
現在のペースで地球温暖化が進んでいけば、「世界のコーヒー豆の約6割を占めるアラビカ種の栽培に適した土地が、2050年までに現在の半分にまで減少する」と言われている、業界にとってもコーヒーを嗜む人にとっても大きな問題です。
UCCは「コーヒーのある未来に向けて、サスティナブルな活動にも推進⼒を持って取り組まなければならない」と真剣に考えているので、こうしたコーヒー生産国の環境問題にも積極的に関わっています。
コーヒーが森を守る。
『ベレテ・ゲラ参加型森林管理プロジェクト』
そのうちのひとつの活動として、“コーヒー発祥の地”と言われるエチオピアには、2011年から毎年通っています。首都のアジスアベバから200kmほど西にあるベレテ・ゲラという地域では、熱帯雨林の中でアラビカ種コーヒーの原種に近い豆が自生していて現地の人たちはその豆を摘んで、生活の足しにしている。いわば、天然のコーヒー農園のような豊かな森が広がっているのですが、近年、エチオピアは経済発展も著しく、森林資源は年々減る傾向にあります。
そこで国際協力機構(JICA)が2003年から現地の人たちと組んでレインフォレスト・アライアンス(※)の認証を取り、そこで採れる“森林コーヒー”に付加価値をつけようという『ベレテ・ゲラ参加型森林管理プロジェクト』を進めていました。
現地の人がコーヒーで稼げるようになれば、森の木を切って売るようなこともなくなり、環境を保つことができる。UCCでは年に1回ペースで品評会を開き、“森林コーヒー”の品質向上のための技術指導を行なってきたのです。
ベレテ・ゲラの森で採れるアラビカ種コーヒーは、直射日光に弱いため、シェードツリー(=日陰を作る背の高い木)が必要な品種でして。日傘になってくれる原生林があることがコーヒーの育成をするうえで理にかなっているんです。そういう栽培方法や仕組みを地元の人に丁寧に伝えることで、コーヒーの質を高めると同時に、守れる森林エリアを広げていく。ある意味、コーヒーが森を守り、森が我々の生活を守ってくれているのですね。
良いコーヒーをつくりながら、同時に環境を守り、現地の人たちの生活環境も守る。その活動の甲斐あって、UCCではベレテ・ゲラのスペシャルティコーヒーを扱うことができるようになりました。これからも環境負荷の少ないコーヒーをつくるための推進力になりたいと考えています。
※ レインフォレスト・アライアンス:国際的な非政府組織(NGO)で、その認証制度とは、森林や生態系の保護、農園の労働環境など、持続可能な農業のための包括的な基準を満たした農園に与えられるもの。
味の見える化
コーヒーのブレンドというのは、第一印象を決める「香り」と、飲み口の「ボディ(コク)」と、「後味」の組み合わせの違いによって変わってきます。
営業職だった頃、法人向けの提案営業や得意先の社員教育などをする中で、「コーヒーの味や香りを相手にわかりやすく伝えるにはどうすればいいのだろう」といつも考えていました。というのも、ブレンドに関しては熟練のブレンダー(ブレンドを考える人)の経験や勘に頼っている部分が大きかった。かつ、それで作られたブレンドのレシピはメーカーにとっては大切な資産なので、UCCでも門外不出の情報です。しかし、それをどうにかして「“見える化”して、属人的な技術ではなく、UCCの強みとして展開できないか」と考えたのです。
ブレンドをシミュレーションするシステムの誕生
コーヒーの味や香りというのは、細かく分類すれば数千種類にもなりますが、その味を感覚だけで伝えたり、共有したりするには限度がある。だから「このコーヒーとこのコーヒーを合わせると、こういう味になりますよ」と視覚で説明できる羅針盤のようなものがあれば、すごくわかりやすいのではないかと思いました。ブレンドは、ある意味、科学的な方程式のようなもの。それを解き、個人の感覚に頼らず、営業の誰もが同じようにお客さまに提案できる形にしたかったのです。
最終的には、専門家でなくても味を共有できる営業用ツールとして、UCC独自のブレンドをシミュレーションできるシステムを作りました。今でも、お取引先のオリジナルブレンドを提案する時に活用されるなどしています。
わからないことが多いからこそ面白い
コーヒーの生産国は、赤道を挟んだ“コーヒーベルト”にある約80カ国と言われていますが、私は、これまでに良いコーヒーを求めて産地を50カ国以上めぐってきました。それでもコーヒーの世界は、知れば知るほど深まっていくように思います。
コーヒーは、まだわかっていないことも多く、味覚を構成する成分も全てが解明されているわけではありません。また、味を決めるのは産地や品種の違いだけではなく、製造プロセスのひとつである「焙煎」も重要なポイントです。でも、焙煎方法は時代ごとに進化し、私が焙煎を覚えた頃と今ではプロファイル(=どうやって焙煎するかといったデータ・情報)もより精緻になっているのです。
そんな未知な部分があるからこそコーヒーは面白い。味のトレンドは毎年のように変わり、数年に一度は驚くような技術革新もある。そして、複数のコーヒーの個性を活かして味を設計していくブレンドには無限の可能性もある。何年関わっても飽きることがない、探求する甲斐のある奥の深い世界です。
COFFEE CREATORに聞きました
「あなたの心に残る、最高のコーヒーは?」
“コーヒー発祥の地”であるエチオピアの人々は今でもコーヒー中心の生活を送っています。招かれた家の奥さんが、フライパンのような鉄板で時間をかけて焙煎した豆を砕き、エチオピア独特のポットへ入れ抽出してくれる。客はそれを3杯飲むのがマナーなのですが、いま思い出してもとても贅沢な時間でした。
農事調査室 室長 中平 尚己(なかひら なおみ) 1991年入社。2002年、UCC社内の認定資格である「UCCコーヒーアドバイザー」の第1号に。その後、国際資格である「CQI認定Q グレーダー」や「SCAA公認カッピングジャッジ」を取得。2007年より「UCCコーヒーアカデミー」の専任講師を務める。2018年から農事調査室 室長。 (部署名・役職は取材当時の情報です)
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