学生時代には機能性食品の可能性を探る研究をしていた進(しん)。現在は、カプセル式のドリップコーヒーシステム「DRIP POD」の味覚設計などに携わっています。そんな進が考える「コーヒーのある豊かな暮らし」とは。
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飲むのはあまり得意でなかったコーヒーが…
私は、実は入社するまでは、コーヒーがほとんど飲めませんでした。
大学4年間は栄養学を学んで、大学院では、緑茶やコーヒーにも含まれているポリフェノール類の可能性を探る研究室に在籍していたので、どちらかというと、コーヒーのおいしさよりコーヒー自体の機能性に可能性を感じていたんですね。
でも、研究室にはコーヒー好きな人がたくさんいました。先輩や後輩が、集中力を高めたい時や休み時間にみんなで談笑するときは必ずコーヒーを飲んでいて……、そういうシーンを見て羨ましく思っていたんです。
飲み物としてのコーヒーに興味が出てくると、私もちょっとずつコーヒーを飲めるように。「健康にもいい飲み物だし、コーヒーの香りも研究対象としておもしろいな」と思うようになりました。
コーヒーには香り成分が800種類もあると言われています。コーヒーの香りは、進がUCCに入社して数年後に関わったプロジェクトでも重要なキーワードになるのですが、入社直後は「まだおいしさを求めるというよりは、研究対象としての興味のほうが強かった」とか。
でも、入社して2ヶ月か3ヶ月目に、生まれてはじめて「おいしい!」と思えるコーヒーに出合ったんです。その時は研究やリサーチを行うセクション(R&D 現「イノベーションセンター」)に所属していたので、ラボに届いた豆をカッピングで官能評価している最中でした。
エチオピアのナチュラルでした。いわゆる「モカ」と呼ばれる豆ですが、「こんな味のコーヒーがあるんだ」とコーヒーの多様性に気づいた瞬間でしたね。「自分はエチオピアのコーヒーが好きなんだ」と気づいたことで、ケニアやルワンダなど、アフリカ系のコーヒーが好きなんだと自覚できた。そこからどんどんコーヒーを好きになっていった感じです。
お客さまからいただいた一通の手紙
その後もR&Dで、#005で紹介している焙煎担当の加藤らと同僚として勤務し、入社4年目からマーケティング部に異動した進。毎年1回発売する「ブルボン・ポワントゥ」の担当に抜擢されました。
「ブルボン・ポワントゥ」はインド洋に浮かぶフランスの海外県・レユニオン島という小さな島で採れる希少なコーヒー豆です。とても繊細でフルーティーな香りのする豆で、固定のファンのお客さまがたくさんいらっしゃる商品なのですが、「もっとおいしくできるんじゃないか」と感じたのです。
というのも、マーケティング部に異動する前は焙煎の部署にいたので、「炒ってすぐのコーヒーをお客さまに届けたい」という思いが強かったんですね。
焙煎直後の鮮度を保ったままお客さまのもとに届けるには……。そこで進は、開封時に「ブルボン・ポワントゥ」独特の香りがより楽しめるように、アルミパックからアルミ缶にする計画を立てました。
開けた時に炒りたての豆の香りがふわーっと広がるように、アルミキャップのスクリューの浅さをあれこれ変えてみたり、イノベーションセンターのメンバーや品質保証室の方々にも協力してもらい、新たなオリジナルボトルに入った「ブルボン・ポワントゥ」を発売することができました。
結局、検討期間を含めて、新しい「ブルボン・ポワントゥ」を発売するまでには1年半くらいかかってしまったのですが、開発中にお客さまから一通のお手紙をいただいたんです。「夫と「ブルボン・ポワントゥ」を病室で飲むのはとてもいい時間でした。いい思い出になりました。ありがとうございました」と。亡くなった旦那様との思い出だったのですが、改めて「コーヒーって人の記憶に残るものなんだな」と心を動かされましたし、背中を押していただいている気持ちになりました。
いまでも自分が担当できて本当によかったと思っています。
“世界を旅するように”味わってほしい
現在、進は、一杯抽出コーヒーシステムを扱う会社として2016年にUCCグループから独立したソロフレッシュコーヒーシステム株式会社に出向し、「DRIP POD(ドリップポッド)」の味覚設計の担当を任されています。
2020年に異動したのですが、正直に言うと、それまでは「DRIP POD」にちょっと懐疑的だったというか(笑)。自分で飲むコーヒーはいつもハンドドリップでしたし、スイッチひとつで淹れられるコーヒーにどうも抵抗があって……。でも、飲んでみたら「あれ!? おいしい!」って。
開発する側の人間がそうだったので、一般の消費者の方も、以前の私と同じ感覚の人がまだ多いのかもしれない。でも、だからこそ、この「発見」と「体験」をなるべく多くの方に伝えたいと思っています。
「DRIP POD」では、さまざまな産地のコーヒーを味巡りして楽しんでいただきたいという想いから、「世界中を旅するように味わえる」をコンセプトに、産地の個性を引き立たせた味わいのカプセルラインアップを展開しています。2022年夏には味のリニューアルを担当させていただきました。
それぞれの産地の豆の個性を光らせることを意識して、苦味、酸味、コクだけじゃなくて、香りの要素もしっかり伝えることで、気分やシーンに合わせて、手軽にコーヒーを楽しんでいただけたらいいなと思っています。
コーヒーのある豊かな暮らし
私自身、コーヒーが飲めるようになって日常が豊かになりました。そして、「DRIP POD」を使うようになって毎日がさらに豊かになりました。
休日は豆を挽くのがひとつの儀式というか、ルーティンになっていいます。それはそれで楽しむ。でも、忙しい平日は毎朝「DRIP POD」で好きなカプセルを選んで、スイッチポンでタンブラーに入れ替えて会社に持っていく。
いまの私にとって、コーヒーは日常に欠かせない存在ですが、自分でおいしいコーヒーを淹れるのって簡単ではありません。豆の種類だけじゃなく、豆の挽き目やお湯の温度やタイミングにこだわらないとなかなか思い通りの味になりませんから。そのハードルを高く感じている方も多いと思います。
でも、これは開発者としてではなくて、ひとりのユーザーとして言いたいのですが、「DRIP POD」はコーヒーのプロが淹れるコーヒーをそのまま再現できるので、本当においしいコーヒーが淹れられます。本気でおすすめできますし、繰り返しますが、自分自身の生活も「DRIP POD」でずいぶん変わりました。
今後は、生活者としてのリアルな視点とともに、コーヒーの専門的な知見や楽しみ方を広げるアイデアなどを広く発信して伝えていきたいです。
あんまり言うと「DRIP POD」の宣伝みたいになっちゃいますが(笑)、これからは、食事と一緒にコーヒーを楽しむ「コーヒー・マリアージュ」などをもっと消費者の皆さまに紹介したりして、コーヒーの楽しみ方のハードルを下げて、皆さまとコーヒーを楽しんでいきたいと考えています。
愛用のコーヒーグッズは
毎朝、家の「DRIP POD」で淹れたコーヒーを持ち歩いているスタンレーの真空マグ。
心に残る、最高のコーヒーは?
入社直後に飲んだエチオピアのナチュラル。はじめて「おいしい!」と思ったコーヒーで、そこから味覚の幅も広がって、どんどんコーヒーが好きになりました。いまでも、ブレンドの中にエチオピアの豆が混ざっているとすぐにわかります。
ソロフレッシュコーヒーシステム会社 事業開発部 アシスタントブランドマネージャー 進 裕子(しん ゆうこ) 2012年入社。イノベーションセンター(現R&D)に所属し、嗜好品開発を担当。2016年にマーケティング本部へ異動。「ブルボン・ポワントゥ」などギフト製品を担当した後、新製品の開発や新店舗の立ち上げに関わり、コーヒーアカデミーで講師も経験。2020年より現職。コーヒーアドバイザー。 (部署名・役職は取材当時の情報です)
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