マナー講師・松澤萬紀さんが教えてくれた、コーヒーがよりおいしく味わえるコミュニケーションと8つのマナー|コーヒーは人の心と心を近付ける接着剤——コミュニケーション編(前編) | コーヒーと、暮らそう。 UCC COFFEE MAGAZINE

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マナー講師・松澤萬紀さんが教えてくれた、コーヒーがよりおいしく味わえるコミュニケーションと8つのマナー|コーヒーは人の心と心を近付ける接着剤——コミュニケーション編(前編)

コーヒーを飲むシチュエーションは人それぞれですが、どんなシチュエーションでも使えるちょっとした気配りがあれば、コーヒーはもっとおいしくなり、もっと豊かな時間を育むことができます。

今回、その気配りを教えてくれるのは、全日空(全日本空輸株式会社。通称:ANA)の客室乗務員として乗務経験があり、現在はマナー講師として活躍されている、松澤萬紀先生。コーヒーをよりおいしく味わうためのコミュニケーションとマナーについて、教えてくれました。前編は、「コミュニケーション」を取り上げます。

コーヒーが持つ2つの役割

私の周りにはコーヒーが大好きな友人が多く、ある友人は受験生の頃、1日に1リットルもコーヒーを飲んでいたそうです。眠気覚ましになるので、勉強の合間に飲んで「さあ、やるぞ!」と気合いを入れていたとのこと。この友人に限らず、お仕事や勉強の合間に、コーヒーを飲むことで元気パワーを充電していた方は多いのではないでしょうか?

私は、コーヒーには飲んでおいしいだけではなく、気分を高めてくれる役割があると思っています。

コーヒーを使った面白い実験結果があります。イギリスの発達心理学者であるサイモン・バロン=コーエンは、通行人に「公衆電話から電話をしたいので、1ドルもらいたい」と声を掛けました。その際、コーヒーの香りがする場所としない場所で実験したところ、コーヒーの香りがしない場所で1ドルをくれた人は20%、コーヒーの香りがする場所では56%と、倍以上の結果になったのです

この実験から、コーヒーの香りには「相手をリラックスさせる効果」があることがわかりました。私はこの結果から、「コーヒーには人の心と心を近付ける接着剤になる役割がある」と考えているんです。

※参考:『ワンコイン心理術 500円で人のこころをつかむ心理学』(メンタリストDaiGo 著/PHP文庫)

客室乗務員たちがこだわった、コーヒーサービスの時間

スウェーデンでは、1日の中で数回、コーヒーとおやつを皆で一緒に取る習慣——「フィーカ」があります。フィーカの目的は、休憩という意味合いだけではなく、非常に重要な「コミュニケーション」のきっかけとして重視されています。どんなに忙しくても「コミュニケーション」を意識して取ることによって、相手とより良い人間関係を築いていきましょうという、すてきな習慣です。

私がANAの客室乗務員をしていた頃、「お飲み物はいかがですか?」と声を掛け、お客さま一人ひとりにお飲み物をお勧めする機内のドリンクサービスを見直す話がありました。

その中で「一人ひとりに声掛けするのではなく、リクエスト対応にしましょうか?」といった案も出されたとき、客室乗務員から、次のようなリクエストサービスに対する反対の声が多く出たそうです。

「飛行機の中にはたくさんのお客さまがいらっしゃいます。限られたフライトタイムで全てのお客さまとお話するのは難しい状況もありますが、『お客さま、コーヒーはいかがでしょうか?』『お飲み物はいかがでしょうか?』とこちらから一人ひとりに声を掛けることで、お客さまと接する機会が増えます。

また、ドリンクサービスがなくなることは、客室乗務員とお客さまとのコミュニケーションの接点を今よりも少なくしてしまう可能性があります。それはとても悲しいことです」

私たち客室乗務員は、「ただ、飲み物をお配りしているだけではない」という意識がありました。お客さまとコミュニケーションを取るきっかけとして、コーヒーをはじめとするお飲み物をサービスし、お客さまとの会話の機会を、お客さまと心がふれあう大事な時間だと考えていたのです。

朝早いフライトのときは「おはようございます」と言いながらサービスをする。ビジネスパーソンのお客さまには「お仕事、頑張ってくださいね」という思いを込めながらサービスをする。ご旅行の方であれば「これからご旅行楽しんできてくださいね」のひと言を添える。夕方の便だったら「お疲れさまです」と疲労をねぎらう。

たった1杯のコーヒーかもしれませんが、その1杯には、その状況にあった、相手に寄り添った気持ちを込めることができます。

ANA時代、上司や先輩からは、「私たちにとっては1日何百杯とお配りするコーヒーですが、1杯のコーヒーがお客さまにとって特別なコーヒーだと思っていただけるような出し方でサービスをしなさい」と言われ続けてきました。そんな「おもてなしマインド」をいつも大切にしていたので、お飲み物のサービスを見直す話が出たとき、先ほどの乗務員のような声があがったのだと思います。

1杯のコーヒーがつくる、笑顔のきっかけ

客室乗務員としてお仕事をしているときに一番うれしく感じるのは、お客さまの笑顔を見る瞬間です。機内でお客さまが笑顔になってくださる瞬間のために、コーヒーは欠かせない存在でした。

私はフライト中に、1杯のコーヒーがお客さまを笑顔にできるシーンに何回も出会うことができました。

例えば、お客さまがフライト中ずっとお仕事をしていらっしゃって、お疲れの様子が見えたとき、「お仕事、大変ですね。もしよろしければ、コーヒーをお持ちしましょうか?」と声を掛けると、その方は満面の笑みで「ありがとう。お願いします」と返してくれたんです。

そのお客さまの笑顔に私自身もうれしくなり、自然に笑顔になれました。笑顔は伝染していくのですね。12年間働いていましたが、こんなうれしい瞬間が何百回もあり、今でも忘れられません。

フライト中に「お客さま、お仕事お疲れさまです」といきなり声を掛けるのは違和感があるかもしれません。ですが、その後に「もしよろしければ、コーヒーをお持ちしましょうか?」と付け加えることで、温かい空気が生まれるんです。

コーヒーを飲んでも飲まなくても、お客さまが笑顔になって「ありがとう」って言ってくださる。「コーヒー」を通じてお客さまとの心の距離が近くなる瞬間です。

コーヒーは人と人をつなげてくれる——「インターバル」の整備士さんのお話

国内線は、多い日には1日4便のフライトがあるのですが、1便目と2便目の間、2便目と3便目の間、3便目と4便目の間にある次のフライトの準備をする時間のことを、「インターバル」と呼んでいます。

このインターバルの時間に、必ず整備士さんが「機内の不具合はありませんか?」と機内の状況を確認しに来てくださるんですね。でも、インターバル中は時間がないことが多く、いつもバタバタしているため、何もトラブルがなければ整備士さんとのコミュニケーションは、「了解しました」で終わりです。

そのとき、整備士さんに「お疲れさまです。よろしかったらコーヒーいかがですか?」とお声掛けすると、すごく喜んでくださるんですよ。それをきっかけに、会話が弾むときもあります。

私たち客室乗務員は、毎日同じ空港に行くことはありませんが、久しぶりにお会いしてもコーヒーがつないでくれたご縁もあり、「この間はコーヒーをありがとう」と声を掛けられることもありました。

ただの事務的なやりとりだけだと、「不具合ありますか?」「ありません」「以上です」で会話は終わってしまいます。顔は覚えていたとしても、事務的なコミュニケーションになってしまうでしょう。

でも、ひと言会話をし、「いつもありがとうございます」の気持ちを込めてコーヒーをお出しすることで、仲間意識の輪が広がっていきます。このコーヒーをきっかけに会話をする時間が、職場の雰囲気を良くするためにとても大切なことだと思っていました。

コーヒーは、相手の心をほぐし、人同士を近付けてくれる

私は今、マナー講師として活動をしていますが、打ち合わせに行くと、毎回とても緊張します。特に初めての場所だと、なおさらです。でも、出先でお飲み物を出していただくと、その場が和みます。コーヒーなどのお飲み物は人の心の中にある凝り固まっている感情をふっとほぐしてくれるような効果があるようです。

先ほど「コーヒーの香りが交渉を有利に働かせる研究結果」をご紹介しましたが、このことを知っている方は効果的にコーヒーを出されるそうなんです。話が煮詰まったとき、「コーヒーのお代わりをお入れしましょうか?」と声を掛け、仕事の話からお飲み物に話題を移してその場の緊張をほぐす雰囲気をつくるのは、その一例といえるかもしれません。

「土地家屋調査士」と呼ばれる職業があります。家の建て替えをする際など、どこまでが自分の土地なのか、きちんと法に従って定めてくれるお仕事なのですが、隣人に「境界線を決める必要があるため立ち会ってほしい」とお伝えしても、「私はここに親の代から何十年も住んでるのに!」と言い返され、仕事がうまく進まない場合もあるそうです。土地の持ち主と隣の人とが立ち合って境界線を確認する作業は、嫌々来る方もいらっしゃるようで……。加えて、朝早いことが多く、冬は寒さもあり、立ち合いにいらっしゃる方はストレスを感じることもあるようなんですね。

そんなとき、温かい缶コーヒーを事前に用意してお渡しすると、その場の雰囲気が全く変わるそうなんです。黙って渡してしまったら「何ですか、これ」(表情はきょとん)になりますが、「今日は寒いので、コーヒーで暖まってください」「今日は暑いですね。冷たいコーヒーを買ってきたので、いかがですか?」とひと言添えてコーヒーをお渡しすると、この会話をきっかけにその場の雰囲気がガラリと変わることもあるそうです。

一例として、土地家屋調査士のエピソードを取り上げましたが、どんな場面でも、「コミュニケーション」は相手の心をいかにほぐすかが重要です。また、難しい話をするときには、事前に用意するコーヒーが思っている以上に効果的です。

他にも、こんなエピソードがあります。

私の友人に、夫婦喧嘩をすると「キーッ」と怒ってしまい、旦那さまになりふり構わず「ワーッ」とネガティブな言葉をたくさんぶつけてしまう人がいるんです。でも、旦那さまは同調して、「キーッ」「ワーッ」と返さず、黙って席を外すそうなんですね。友人が「どこに行ったんだろう?」と思っていると、「コーヒーを淹れてきたよ」って。

そうすると、コーヒーの香りの効果もあって、怒っているのがバカバカしくなるそうです。その旦那さまが謝るわけではないのですが(笑)、お互いが「さっきはごめんね」と言いやすい雰囲気になりますよね。

コーヒーは、相手の心をほぐしてくれるツールになる——。そのことをお伝えしたくて、2つのエピソードをご紹介しました。1杯のコーヒーが自分や周りを笑顔にしているきっかけになっているのですね。

(後編に続きます)

マナー講師・松澤萬紀さんが教えてくれた、コーヒーがよりおいしく味わえるコミュニケーションと8つのマナー|コーヒーをおいしくするのはテクニックだけじゃない——8つのマナー編(後編)


松澤萬紀(まつざわ・まき)

日本ホスピタリティー・マナー研究所・代表。幼少期よりCA(客室乗務員)に憧れ、8回目の試験で念願のCAに合格。全日空(ANA)のCAとして、12年間勤務する。ANA退社後は、ホスピタリティー・マナー講師、CS(顧客満足度)向上コンサルタントとして活動。

関西人ならではのユーモラスな講義で、過去最多は、年間登壇回数200回以上(総受講者数は、2万人以上)。リピート率は97%に達し、1年後の研修も決まっている。著書に、14万部を突破した『100%好かれる1%の習慣』、『【図解】100%好かれる1%の習慣』。台湾や韓国でも翻訳され、人気を博している。


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